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ラピダスへの税金投入に関して

ラピダスへの税金投入に関して

 2024.06.16

 

・国策半導体会社ラピダスが9,200億円を投じて北海道千歳市に最先端の半導体工場を作るという。今後の日本が世界経済の競争の中で生き抜いていくためには、半導体分野でリードを保つ必要があるから、これは必要な政策だという。しかし問題はラピダスがその役割を果たせるかどうかだ。以下この問題の論点を明らかにした大西氏の記事を引用する(参考文献[1])。

 

  *ラピダスは業界で「半導体の五稜郭」と呼ばれている。つまり1990年代に日本の半導体が世界で5割以上のシェアを握っていた栄光を忘れられない人々が「夢よ再び」と集結したことから、このプロジェクトを大政奉還後に旧幕府軍が立てこもり最後の抵抗をした五稜郭になぞらえている。

 

  *きっかけはIBMのCTOだったジョン・ケリー氏が東京エレクトロンの元社長東哲郎氏にかけた電話だった。ケリー氏はIBMが2ナノのロジックを開発したので技術提供をするから日本で製造しないかというオッファーだった。

 

  *これに飛びついたのが、半導体戦略推進議員連盟会長を務める甘利正氏や経産省商務情報政策局長の野原諭氏。

 

  *TSMCの熊本進出に比べラピダスが異様なのは民間の出資が少ないこと(民間出資比率0.8%)。つまり民間は勝てる見込みがないと判断しているようだ。

 

  *この問題に関して、著者の大西氏が経済産業省のデバイス・半導体戦略室に取材を申し込むが断られる。

 

  *多くの半導体専門家がこのプロジェクトに不安を抱いている。①東氏はすでに74歳、しかもICU出身の営業マンで技術者ではない、技術がわかる経営者として東氏が誘った小池淳義氏はルネサンステクノロジー技師長を務めたがすでに71歳。この老齢コンビで変化の速い半導体分野に攻めていけるのか、②2ナノは世界のトップを走るTSMCやサムスンですらまだ実現していない。現在の最先端ロジック半導体ではFinFETという構造が使われているが、2ナノからはGAAという新しい構造に移行する。この以降のロードマップを持っているのはTSMC、サムスン、インテルの3社だけ。IBMは2015年に半導体の生産部門を売却しており、GAAへのロードマップは持っていない、③ラピダスはGAAを学ぶため100人の技術者をIBMの最先端半導体拠点に「留学」させているが、彼らの平均年齢は50歳を超えている。④仮に2ナノに成功しても、それを使う顧客がいるかどうか。この分野ではティーチャー・カストマーが必要。TSMCにはアップル、サムスンは自社のスマホ部門がある。

 

  *つまり経営者は「退役兵」ともいえる70代で、現場も経験不足、量産はおぼつかないうえに、仮に成功しても買い手が見当たらない。こうしたプロジェクトに1兆円もの血税を投じる意義があるのかどうか。

 

・以上やや長い引用となった。週刊誌を購読していない人が多いと思われるので、内容の重大さを鑑みて、こうした形で示した。

 

・それにしても、なぜこうした問題の経緯と論点をわかりやすくまとめた記事が、大手新聞や公共放送で報道されないのだろうか。この意味で週刊誌は、現代日本において既存マスコミが扱わない問題を報道するという役割をはたしているようだ。たとえば英国のBBCは政府とよく対立することで知られる。それは彼らのモットーが”不偏不党”だからだ。

 

(参考)

[1]大西康之、「半導体バブルと経産省の大暴走」、週刊現代、2024.06.8・15

[2]〃   、「浦島太郎のIBMを妄信 ラピダスに「血税1兆円」、ファクタ、June,2024

[3]クリス・ミラー、「半導体戦争」、千葉敏生訳、ダイアモンド、2023

[4]税所玲子、”分断の時代の不偏不党」、放送研究と調査、Aug.,2021”