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気象モデルの進展と経済予測の問題点

気象モデルの進展と経済予測の問題点

 2024.08.03

・天気予報といえば、なかなか当たらないのが定番だ。それにはちゃんとした理由があって、気象システムは、①多様な要素からなり、②その反応は非線形で、③不安定(多重均衡)、かつ予測モデルが完全ではないからだ(参考文献、[3],[4])。

 

・通常、気象予測には大気循環モデル(General Circulation Model)が用いられる。しかしMITの学者ロレンツが見出したように、ほんのちょっとの条件変化で結果が大幅に異なってしまう。しかもこのモデルを回すには大量の計算力が必要だ(つまりエネ多消費的)。

 

・今回、グーグルのステファン・ホイヤー(Stephan Hoyer)等は既存の気象予測モデルに機械学習モデルを組み合わせて予測モデルを構成した。これを使うと予測値が素早く求まり、計算に要するエネルギーも少なくて済むという。

 

・こうしたアプローチが可能になった背景には、多くの確立された気象データが存在し、それを機械学習モデルのトレーニングに使えるという利点があったものと思われる。

 

・ただし重要なポイントは、英国アラン・チューリング研究所のスコット・ホスキングが述べたように、「気候は常に変化し続ける。その予測には未知の世界へ飛び込むことが必要だ。この意味で機械学習モデルは未知の将来への、現在からの投影である」。つまり気象予測の場合にも、元米国国務長官ラムズフェルドが述べた、「Unknown Unknowns」に入り込まざるを得ない。

 

・われわれも、e予測として、各種の経済予測ツールを開発中だが、まさに同じ課題にぶつかっている。人間の知性(シナリオ作成力)とコンピュータの巨大なデータ処理能力を組み合わせることで、将来展望を試みている。ちょっとした例だが、当方が昨年3月に提示した円レートの変動シナリオは、今年になってその実態が表れ始めている。ご参考まで。

 

(参考)

[1]Helena Kudiabor,"Google AI predicts long-term climate trends and weather-in minutes",Nature,July 23,2024

[2]Lorenz E.N. ”Climatic Determinism”, Meteorological Monographs, Feb.1968

[3] Saltzman B., Dynamical Paleoclimatology,Academic Press,2002

[4] 松田佳久、余田成男、「気象とカタストロフィー」――気象学における解の多重性

気象研究ノート、第151号、1985