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「世界モデル」とAI

「世界モデル」とAI

   2024.08.31

・世界モデルといっても、世界経済の予測を行う経済モデルのことではない。ここで論じるのは、AIの開発概念である。人間の場合でいえば、「『私たちが生きている世の中はこういうものだ」という主観的なモデル」(中島[1])。つまりわれわれが持つ世界観のことだ。今AIの世界では、これをLLM(大規模言語モデル)に持たせるべく、懸命な開発が世界中で進んでいる。

 

・この問題を扱った元論文では(参考文献[2])、世界モデルを「自分自身の感覚で得た世界に関するメンタルモデル」と定義している。メンタルモデルとは心理学用語で、「人間が無自覚のうちに持っている、思い込みや価値観」のこと(ウィキペディアによる)。

 

・なぜ世界モデルがAIに重要かというと、人間はそれを使って自らの行動を決めているからだ。これがないと、AIはたんなる物知り機械になってしまう。

 

これをAI世界モデルでは以下のような3段階プロセスで模倣している。

 

 *第一段階は、ビジョン(V)、第二段階はメモリー(M)、第三段階はコントローラー(C)(参考文献[2])。

 

 *ビジョン(V):通常2次元イメージでとらえる。現在の状況を圧縮して把握。

 

 *メモリー(M):ビジョンに基づいて将来を予測。確率的な時系列モデルを利用。

 

 *コントローラー(C):以上の2段階に基づき、モデル利用者の期待効用を最大化するための政策手段を見出す。

 

・このアプローチが面白いのは、AIが人間の認知行動に近づき始めたことの現れだからだ。ただし問題点はある。人間が将来を予測するとき、2つのやり方がある(テトロック、p99)。それはキツネ型とハリネズミ型と言われている。これは哲学者バーリンの分類だ。キツネがたくさんのことを知っているのに対し、ハリネズミはたった一つ重要なことを知っている。そして将来予測には、固有の判断基準にとらわれないキツネ型がうまくいく。

 

・AIの世界モデルとは、上の例でいえば、ハリネズミ型だ。つまり多くの情報を圧縮して一つにまとめ、それを特定の価値判断で将来予測につなげるというものだ。論理的にはすっきりしているが、テトロックが指摘するように、現実世界の予測に役立つかは疑問だ。

 

・他方で、当方のe予測はキツネ型だ。まずビジョン段階では、人間の直感や歴史感覚を活用して、将来の基本的枠組みを作り出す。ついで数量モデルを様々な想定の下に動かして(気象予測のアンサンブル予測と同じ)、将来に関するイメージを整合的な形でとらえる。そこで見出した経路をユーザーにわかりやすい形で提供する。

 

・さてAIの世界モデルが勝つか、それともe予測の将来展望が意味を持つか。面白いところだ。参考のためにe予測がこれまで行った予測結果を示しておく。

 

 *バブルの崩壊可能性を指摘(1980年代後半、東洋経済統計月報)。

 

 *GAFAの将来性を指摘(1990年代、「ディジタル・エコノミー」参照)。

 

 *円安の可能性を指摘(当方HP参照)。

 

・最後に、現在当方が、現在指摘している問題を付け加えておく。「日本自動車工業の崩壊可能性高まる。そしてこのことが日本経済の心柱(シンバシラ)を揺るがせる」。

 

(参考)

[1]中島聡、「Life is beautful]、2024.08.20

[2]David Ha and Jurgen Schmidhubler,World Models,https://worldmodels.github.io/,(ギットハブが出所とはちょっとかっこよい)

[3]フィリップ・テトロック、ダン・ガードナー、「超予測力」土方奈美訳、早川書房、2016 Philip E.Tetlock & Dan Gardner,Super-forecasting,Random House,2016