イノベーションとマスコミの役割
2024.12.14
・すでに報道されているように、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が開発中の小型燃料ロケット「イプシロンS用の2段目エンジンの開発が失敗し爆発した(参考文献[1])。残念なことだ。
・いつも思うのだが、こうした記事に海外情勢との比較が入っていない。つまり世界のロケット開発の現状はどうか。その中で今回の失敗はどのような意味を持つかが示されていない。
・たとえばJAXAとアメリカのスペースX社を比べてみよう。同社は2002年イーロン・マスクが創立し、ロケットならびに宇宙船ドラゴンや衛星スターリンクを開発している。ロケットに関して言えば、再使用を可能にし、これによって打ち上げコストが半減した。現在同社の時価総額は3,500億ドルで、スタートアップとしては世界最大となった(いずれ株式公開するとのうわさがある)。
・この会社のCEOであるグウィン・ショットウェル(Gwynne Shotwell)は、現在61歳、ノースウェスタン大学出の技術者で、創立以来のメンバーだ。2008年に社長に昇進、現在は人類を火星に運ぶ再利用可能なロケット開発を進めている(参考文献[2])。
・ここでシンプルな疑問。なぜロケットの低価格化と性能向上がアメリカの新興会社スペースXにできて、日本のJAXAにできないのか。マスコミはこうした面からの解説記事を、打ち上げ失敗に関してもきちんとつけてほしい。そうでないと、日本の読者にとって、今回の打ち上げ失敗の意味がわからないからだ。
・同じことが自動運転に関する記事にも言える。最近テスラの自動運転システム(FSD)はV13へとバージョンアップされた。ユーザの利用体験はYouTubeなどで公開されている(https://www.youtube.com/watch?v=YsI2mEWrxI8)。しかし日本のマスコミには、こうした動きはほとんど報道されていない。
・ではどうすればよいか。幸いに現代はネットの時代だ。うまくやれば、ネットからかなりの情報をとることができる。たとえばEVに関しては、EVsmartブログの記事(日本語)が包括的でわかりやすい(https://blog.evsmart.net/)。このブログでは上にあげたFSDの最新バージョンの記事がすでに掲載されている。
・表題(イノベーションとマスコミの役割)に戻る。今の時代、とくに日本においてはIT革新がらみで情報を得ようとしたら、上で見たように、マスコミ以外に頼らざるをえない。つまりイノベーションの進行やネタ探しに、日本のマスコミは役に立たない。
・第二次大戦終了後のことだが、一人の青年がアメリカの雑誌でトランジスタ関連の記事を読んでいた。これが井深大のアメリカ出張(1952年)につながり、東京通信工業(のちのソニー)発展の始まりとなった。どうもこの時代に、日本の情報レベルは後戻りしたような感じがする。
(参考)
[1]Stephen Morris,"Gwynne Schtwell,the woman making SpaceX's moonshot a reality",FT,Dec.14,2024
[2]産経新聞、「燃焼試験再び爆発」、2024.11.27
[3]イノベーションのジレンマ 増補改訂版: 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき 単行本 ? 2001/7/1
クレイトン クリステンセン (著), 伊豆原 弓 訳、翔泳社、2001