· 

天気予報の精度向上と経済予測

天気予報の精度向上と経済予測

 2024.12.21

・グーグルがAIを利用して、気象予測の精度向上を実現したようだ。

 

・かって天気予報は”当たらない”ものの典型だった。冷蔵庫のない時代、生ものを食べるときには、「気象台」、「気象台」、「気象台」と3度唱えると、食中毒にならないという笑い話があったほどだ。実際ヨーロッパでも、天気予報を外した気象予報士のYoutubeが今でも引用されているほどだ(参考文献[2])。

 

・気象予測がなぜ難しいか。これには基本的な問題がある。それはMITのロレンツが半世紀ほど前に明らかにしたように、気象現象は、ちょっとした初期条件の変化で結果が変わるため、基本的に予測が不可能だからだ(参考文献[3],[4])。

 

・しかし気象予測は生活に欠かせない。これに対応するため、気象予測ではアンサンブル予測という手法を用いる。つまり様々な状態をモデル計算し、その幅で将来予測を行うのだ。今回のグーグルの天気予報(Gencast)も基本的にこの手法を踏襲している(参考文献[1])。しかしその特色は、予測の算出にAIを使ったことと、その学習に40年分の全地球気象データを用いたことだ。

 

・グーグルはこのAIを、2018年までのデータでトレーニングし、2019年の気象を予測してみた。その結果は、現状で世界最高水準であるECMWF(European Centre for Medium-Range Weather Forecasts、ヨーロッパ中期予報センター)の予測結果を上回ったという。とくに異常気象(熱波、強風など)の予測に優れていたこと、一回の計算が8分という短時間でできることが特色だ。

 

・話は飛ぶが、こうしたAI予測の精度向上は経済予測にも当てはまるだろうか。実はかなり難しいというのが筆者の考えだ。その理由は、①経済には、安定した大量の定常データが存在しない(AIモデルの学習に不可欠)、②気象学の場合、基本的な動学モデルは確立しているが(例:Gregory Charney論文)、経済にはそれに対応するような安定したモデルが存在しない(”経済学者の数ほど意見がある”と同じ)からだ。

 

・したがって経済予測の場合には、最近のITの力を利用した形でアンサンブル予測を進めていく以外ない。これがe予測の目指すところだ。

 

(参考文献)

[1]Google,"GenCast predicts weather and the risks of extreme conditions with state-of-the-art accuracy",4 December 2024

[2]Igor Tulchinsky,”Superforecasting with AI promises the best of all future works",FT,July 28,2023

[3]Lorenz E.N. ”Climatic Determinism”, Meteorological Monographs, Feb.1968

[4] 松田佳久、余田成男、「気象とカタストロフィー」――気象学における解の多重性

気象研究ノート、第151号、1985