クリーブランドCEOの発言とその意味
2025.01.18
・新日鉄のUSスティール買収が厄介な展開となっている。
・そもそも新日鉄がよりによってアメリカの選挙の年に、USスティール買収に乗り出したか、その場合に新日鉄側に期待されるメリットは何かが、われわれ外部の者にはわかりにくかった。
・今回の買収騒動で、はしなくもアメリカの日本に対する感情の底流が表れてきた。米国の鉄鋼メーカークリーブランド車のCEO、ゴンサルベス(Goncalves)氏は、新日鉄に対抗してUSスティールの買収に乗り出した。その時の発言は日本のテレビでも放映されたから、ご覧になった方も多いだろう。
「中国は悪い。中国は邪悪だ。中国はひどい。だが日本はもっと悪い・・・あなた方(筆者注:日本のこと)は1945年以来何も学んでいない」というのがそのさわりだ。
・これはアメリカの日本に対する感情の底流ともいうべきものだ。たとえばキューバ危機の時に、ケネディ大統領の弟で司法長官のロバートが大統領に「真珠湾攻撃を計画したときトージョーがどう考えたかが、やっとわかってきましたよ」(参考文献[5],p23)と述べたのがその一例だ。アメリカは日本が第二次大戦で行った奇襲(sneaky attack)を今でも忘れていない。
・確かに第二次大戦のとき、日本は、海軍当局の意図的操作と在ワシントン日本大使館の怠慢により、対米開戦通告が遅れた。しかもアメリカ側は日本の暗号を解読していたから、その内容はすでに理解済みだったという落ちまで付く。
・その後、日本は公式にはこの問題に関して正式に謝罪していない。同様に日本側の主導で始まった日中戦争(1931年の満州事変から始まる)や第二次大戦中に迷惑をかけた東南アジア諸国に関しても同様だ。ドイツの場合、ブラウン首相が1970年にホロコーストの現場に行き、ひざまずいて祈りをささげた。また1985年にはワイツゼッカー大統領が議会で過去に対する反省を述べている。
・しかし第二次大戦の戦場となった相手側は忘れていない。たとえば南京事件に関しては、清水潔氏の調査があり、これを読むと当時の事情がよくわかる(参考文献[3])。またシンガポールの初代首相リークワンユー氏の自伝は、第二次大戦中にシンガポールで何が起こったかを、現地の当事者の目線でまとめている(参考文献「4」)。
・すでに遠い昔となったが、昭和前期に何が日本で起こったかを知ることが今後の日本が世界で生きていくために必要だ。それには半藤氏の「昭和史」が役に立つ。これまで歴史というと、特定のイデオロギーの上に書かれたものが多く、それだけで拒否反応が出たが、この本は事実を淡々と述べており、わかりやすい。まだお読みでない方にはぜひ一読をお勧めする。
・そこから先は、各自の判断に任せたい。しかし相手側には、最初に述べたような底流があることを忘れてはならない。21世紀の日本の課題はそれの”超克”だ。それが現代日本の政治家に問われている。
(参考)
[1]Leo Lewis,”An anti-Japan tirade takes the US back in time”,FT,Jan.17,2025
[2]半藤一利、「昭和史」、平凡社、2011
[3]清水潔、「『南京事件』を調査せよ」、文藝春秋、2016
[4]リー・クアンユー、「リー・クアンユー回顧録 」上、小牧 利寿訳、日経BP,2000
[5]ロバート・ケネディ、「13日間」、朝日新聞外信部訳、中公文庫、2001