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「さよならホンダ」の衝撃

「さよならホンダ」の衝撃

  2025.02.15

・たしか中島聡さんのブログにも引用されていたが、「さよならホンダ」を読んだ時の衝撃は大きかった。

 

・今を去る半世紀ほど前、筆者は工学部の学生だった。機械系学科だったので、自動車メーカーへ就職した者も多かった。ホンダもその一つだ。

 

・当時ホンダは日の出の勢いで、オートバイで世界を制覇し、乗用車への参入をもくろんでいた。筆者は当時ホンダのオートバイ(ドリーム)に乗って学校に行っていたから、経済系へ転身しなければ、ホンダが就職先の有力候補になっていたはずだ。実際先輩や同輩でホンダに就職した者も多かった。

 

・当時のホンダは面白かった。就職した先輩がエンジンの設計図を描いていたところ、創始者の本田宗一郎が寄ってきて、「何を描いているんだ」と聞かれた。先輩は得意になって新機軸を説明したら、途中でいきなり本田にスパナで殴られた。「お前はエンジンのことが何もわかっていない」というのが本田の捨て台詞だった。

 

・通常なら腹を立てるところだが、なにせホンダの運動会で、真っ暗なテントの中にオートバイの全部品を散らばせて、組み立てるという競技で圧倒的に強かったのが、本田宗一郎だから一言もなかった。

 

・そのホンダが、上のブログ(「さよならホンダ」)によると、今では「ホンダの社員は全く技術開発を行っていませんでした。・・・実はサプライヤーと呼ばれる部品メーカーに技術開発を丸投げしておりました」という始末だ。

 

・どうも日本経済の停滞の根本原因は、この辺にありそうだ。つまり成長停滞はマクロ現象ではなくミクロ現象だ。よくエコノミストは、成長を復活させるためには生産性の向上が必要だなどとのたまう。確かにマクロでは以下の定義式が成り立つ。

  

  GDP=(GDP/L)*L

 

   これを伸び率で書けば、

 

  経済成長率=生産性の伸び+労働力の伸び

 

 したがって労働力の伸びを一定とすれば、生産性を伸ばすことで、経済成長率は高まる。

 

・しかしこの議論は事前(ex-ante)と事後(ex-post)の違いを無視している。この区別はもともとミュルダール(Gunnar Myrdal)によるものだ。簡単に言えば、たとえば夕方にお日様を上に引っ張ることができれば、昼が取り戻せるといった議論が成り立たないのと同じだ。お日様が落ちるのは、結果であって原因ではない。同様に、生産性は成長の事後的な結果であり、事前的な操作変数ではない。

 

・「さよならホンダ」の議論は、ホンダだけではなく他の日本企業にも通じることだろう。他方で、世界の動きは速い。たとえば中国自動車メーカーBYDは生産量においてすでにホンダと肩を並べている。しかも最近では自動運転ソフト(God's EYE:天眼の眼)を全車に搭載するそうだ。

 

・さてどうしたものか。日本の自動車メーカーの人間は誇り高いだけに、こうした現実を直視するのは難しいだろう。

 

(参考)

[1]REDFIVE'S WEB NEWS、「新卒で入社したホンダを3年で退職しました さよなら大好きだったホンダ」、2025.01.17

[2]Gigazine,「自動運転システム『神の目』を将来的に全車種に搭載する方針をBYDが表明」,

2025.02.12