「Supremacy」(仮訳:覇権)を読む
2025.03.15
・AI(人工知能)の世界は、日々目まぐるしく変わる。当方もそれを(特にSLM)自社ソフトに組み込むべく、日々検討を重ねている。
・その中で見つけたのが、パーミー・オルソンの「Supremacy(覇権)」だ。著者はブルームバーグ(金融に強いメディア)で2016年以来AI担当の解説委員。
・この本の対象は2024年7月までで、最近のディープシーク騒動は追えていないが、それ以外の主要テーマはあたかもその場にいるような感じで記されている。まるで戦国時代に太閤記を読んでいるような気がする。
・この本の二人の主役はアルトマン(Samuel Harris Altman、1985年生まれ)とハサビス(Demis Hassabis、1976年生まれ)だ。
・アルトマンはオープンAI(OpneAI)の創始者。マイクロソフトと組んでチャットGPTを提供している。ハサビスはディープマインドを立ち上げ、グーグルと組んでいる。ハサビスは2024年にノーベル化学賞を受賞した。両者の関心事は若干異なっており、アルトマンはAIが無限の富を創造し、人々の生活水準を向上させるとのビジョンを持つのに対し、ハサビスはAIが宇宙の成り立ちの理解など科学の発展に役立つことを期待している。
・面白かったのは、彼らとマイクロソフトやグーグルとの交渉だ。AIの開発には膨大な資金がいる。それを確保するためには大手IT企業と組まねばならない。しかし問題はこうしたIT企業にとってAIがプラスになるかマイナスになるかだ。たとえばグーグルは検索エンジンで食っているが、AIを使えば、その利用はなくなる可能性がある。マイクロソフトの売っているソフトもAIにとってかわられる可能性がある。こうした矛盾を抱えながら、アルトマンもハサビスもしたたかにIT大手と連合を組んでいく。この辺がこの本の山場だ。
・読んでいてちょっと気になったのが、大学からのブレインドレイン(知能流出)だ(参考文献[1]、p93)。AI開発には大量のエヌビディア製GPUが不可欠だ。大学の研究室ではせいぜい数十個のGPUしかなかったのに対し、たとえばサムスンでは2,000個のGPUが利用できたという。同じことはもっと規模を大きくしてマイクロソフトやグーグルで成り立つだろう。また給料も大学に比べこうした企業では何十倍にもなる。こうして大学からAI関連の優秀な学者の流出が生じたという。
・日本に話を戻せば、1970年代には、ニューラル・ネットワークで世界をリードしていた(参考文献[2]、p76)。たとえば福島邦彦教授の名前がよく引用される(2021年バウワー賞)。しかしそのあとは音なしだ。おそらく日本の学術研究に関する資金配分がうまくいかなかったのだろう。例は違うが、ピアツーピア技術の金子勇さんもつぶされてしまった。AIの急激な発展を横に見ながら、日本の影は薄い。残念なことだ。
(参考)
[1]Parmy Olson,"Supremacy",Macmillan,2024
[2]ケイド・メッツ、「ジーニアスメーカーズ」、小金輝彦訳、CCCメディアハウス、2021