BYD(比亜迪)の躍進に関して
2025.04.05
・中国の自動車メーカーBYD(比亜迪)の躍進が止まらない。昨年の世界販売台数は400万台を超え、ホンダや日産を上回る規模となった。
・その背景には先進技術の絶えざる導入がある。先進運転システム神の眼(God's Eye)の搭載や、また最近ではEV(電気自動車)の充電を5分でできるようにした技術力だ。これまで充電には数十分かかっていたのだから、これは大きな進歩だ。つまりEV車が、ガソリン車が給油する時間に追いついたのだ。
・いよいよ自動車王国の日本にも黄昏が訪れてきたようだ。日本経済は自動車で食ってきたから、その牙城が脅かされるということは、日本経済の没落を意味する。
・BYD車の日本販売台数はまだ少ないが、伸びしろは大きい。長澤まさみちゃんのコマーシャル「知るほど!ありかも、BYD!」を見た人も多いだろう。これは英国製掃除機ダイソンの日本登場に似ている。当初ダイソンなど誰も知らなかったが、使っている人が増えるにつれ、その便利さが浸透し、今では大型家電店には常備されている。なにせ使ってみると、掃除しやすいし、ごみの捨て方も容易だ。わが家でもいつの間にかダイソンが主流になってしまった。
・BYD車の走りに関しては、実際のユーザーである経済評論家鈴木貴博氏の記事を読むことをお勧めする(参考文献[2])。鈴木氏がそこで注目しているのはBYDのSDV技術(Software Defined Vehicle)、つまりソフトによって自動車の性能を更新する技術だ。これはテスラのOTA(Over the Air)と同じで、車のスマフォ化に欠かせない技術だ。これに関しては、通産省などが研究会を開いているようだが、ちょっと遅い感じがする。
・こうしたクルマの興亡のどこが分岐点かといえば、DARPA(アメリカの国防高等研究計画局)のグランドチャレンジ(クルマの自動運転を競う競技、2000年代初期)とテスラの販売開始(2009年)あたりだろう。このころ日本では、自動車のEV化や自動運転に関しては、ほとんど関心がもたれなかった。生産台数で世界一になった自動車大国のおごりだろう。ちょっと例は古いが、日本海海戦勝利(1905年)の記憶に頼り続けた第二次大戦の日本海軍に似ている。ちなみに日本海軍の場合にもレーダー技術で決定的な後れを取ったことが敗因といわれている。
・話が飛ぶが、今流行のAI(人工知能)についても似たようなことが起こっている。AIの躍進時期は2010年代初頭だった。
*ハサビスとスレイマンがディープマインドを創設(2010年)。
*グーグルがディープラーニングに基づく音声認識サービスを展開(2011年)
しかし日本では、当時この動きは一部の専門家を除いてほとんど注目されていなかったように思える。何も海外の流行を追う必要はないが、時代の変化にはとがった感性を持っていてほしいものだ。
(参考)
[1]Grolia Li & Edward White,"BYD's annual sales top $100bn for first time",FT,March 25,2025
[2]鈴木貴博、「こりゃトヨタも抜かれるわ・・・テスラを超えた「BYD」を軽く見る日本人を待ち受ける『受け入れがたい未来』」、ダイアモンドオンライン、 2025.03.28
[3]ケイド・メッツ、ジーニアス・メーカーズ、小金輝彦訳、CCCメディアハウス、2021